モルジブ通信

Saturday, August 11, 2001

モルジブ通信 7 - 環境問題について 




こんにちは。

モルジブ通信7号です。

アトールの島々に「出張」に行っていたのでちょっと間があきました。地方の島々で見聞きしたことについてはまた別の号でカバーします。できればたぶん、だけどね。モルジブを旅立った後でも書く気があれば、の話ですけど。

それにしても、いままで島々の人の生活を実際に見ないで、よくモルジブ通信書けたな、と思います。やっぱりマーレと島々の生活のdisparityは激しく、ぜんぜん違う生活が待っていました。だって、トイレは用足したあとは井戸の水を三回汲んで流すもんだ、とか経験しないと分からないでしょう。そしてそれがどんなに時間がかかって大変なことかも。


今回は、モルジブの環境問題について。

やっぱりモルジブを語るには環境問題なしでは語れないでしょう、というくらいモルジブの国としての存在と海の環境は深く関わっています。学校でも「環境」という理科と組み合わせたような授業内容が取り込まれて、みんな小さい頃から環境問題への意識がたたき込まれているくらいです。(それでもタバコの吸殻海にポイ、とかする人いますけどね。)

よく質問される「モルジブは本当に沈むのか」ということと、モルジブ政府がいろいろ練っている環境対策と、これは近いようでちょっと違う次元の話です。絡み合ってはいますけどね。

だって国存亡の危機と、ゴミ下水問題どうするか、って話とを一緒には出来ません。国が消滅したらゴミ問題なんて関係なくなるのです。

でも、どうせだから両方の話題にそれぞれ触れていきたいと思います。そしてそれがどう絡み合っているかも。また長い話になってしまいますけどね。

では、まず「モルジブは本当に沈むのか」について。

こればっかりはアメリカとか先進国の二酸化炭素等の排出量規制によるからなんともいえません。このままアメリカとかがワガママ通したり、先進国たちがイジ張り合ったりとかしていたら、確実に沈むでしょう。

モルジブの平均海抜は1.5m。海抜1m以下の島が全体数の80%を占めるので、このままの温暖化のペースが続いたら2100年までに2-3.8℃気温が上昇するだろうと言われてますが、そうなると水面は48-95cmあがることになるので、その時点でモルジブは国の大半が海の下でしょう。

それはホントに国存亡の危機です。

毎年水際のラインがどれだけあがってきているか測量しているらしく、確実にじりじりとあがってきているのを示す資料をオフィスで見つけました。じりじりと少しずつあがってくる水際を見ているのは、少しずつ国がなくなっていくのを見ているのと同じワケだから、きっとすごいあせりがあるでしょう。タイタニックに水が入ってくるのとスピードこそは違うとはいえ、気持ち的には同じなんじゃないかと思います。

しかもそれは自分たちのせいじゃありません。自分たちよりはるかにいい生活を楽しんでいる人たちのせいです。そして、その人たちは、この地球の片隅で海に沈むかも、という恐怖と日々闘っている国の人たちのことなんて、あんまり考えてくれていません。自分たちの便利さばっかりを追求しています。モルジブ人は誰に対して文句を言えばいいのでしょう。ちなみにモルジブの二酸化炭素排出量は、世界の総排出量のうち0.01%以下を占めるだけです。残りは「他国」です。

そして、他国のせいで水際のラインが上がってきているため、モルジブ政府がやらなくてはいけないことが増えています。一つは、国際的にこのモルジブの危機感をアピールすること。FCCCとか京都プロトコールとかいろいろな国際会議や協定に積極的に参加して、各国に切実に訴えています。自らも二酸化炭素排出量規制を積極的に取り入れたりSustainable Energyといって環境にやさしいエネルギーシステムを取り入れようとアセスメントを始めるなど、先進国よりもはるかに進んだ意識を持ってこの問題に取り組んでいます。 

もう一つは、その温暖化で水面があがってきていることにより島々にいろんな弊害がでているためそれに対してその場しのぎの対症療法を次々としていかなくてはいけないこと。例えば、海浜侵食(beach erosion)。

水面があがってきている、ということは、地球上の海水の量が増えている、ということなので潮の満ち引きのたんびの水の量が変わってきていて、波が打ち寄せたりひいたりするたびの水の力が前にも増して強くなっているため、ビーチの砂が持っていかれる量が増えています。それはどういうことにつながるかというと、例えば満潮の時、風が強くていつもよりちょっと高い波が打ち寄せてきたりすると、ふだんはなんの影響もなかったところに、海浜侵食によってビーチが狭くなってしまっているために、ビーチ際に建っている家の方にまで水が押し寄せる、というようなことがでてきます。てことは、嵐などが来たらもっと大変なことになる、ということです。

そのための対策として、マーレの周囲には日本のODAで堤防をたてたりしています。その額、実に134万ドル。他の200島くらいある有人の島々に同じような堤防を作ろうとすると輸送コスト等も含めて60億ドルかかると言われており、さすがにODAもつきようがないようです。

なので、他の地方の島々では島のコミュニティが手作りで堤防「的」なものを作ったりしています。堤防「的」なモノというのは、ホントに手作りだから、サンゴの死骸をブロック状にして積み上げたようなモノなので、耐久性的にどうなのかしら、と思うからです。海の潮のパワーはすごい大きいからそんなんで大丈夫かしら、とか思ったりして。島のビーチの周りに植物、例えばマングローブのようなものを植えるのも一つの手ですが、そうすると、もうビーチに手軽にアクセスできないことになってしまいます。トイレを海でしている人たちにとっては困ることですね。

また、リゾートなどでは、ビーチが狭くなってしまっては青い海と白い砂のビーチを期待して来ている観光客に申し訳が立たない、といって、定期的に海の底に流れてしまった砂を掘り起こしてビーチに砂を戻すなどの対策をしています。それによって実はサンゴが傷められたりしているのですが、その辺はビーチ優先、のようです。

サンゴの白化も温暖化の影響でしょう。98年のエルニーニョでだいぶモルジブのサンゴもやられたようです。いまは戻ってきつつあるといわれてますが、これこそ打つ手がないので大変でしょう。特に海の美しさで世界中のダイバーを魅了しているモルジブからサンゴが消える、というのは大変な大打撃です。ツーリズムが国の歳入の一番のソースなわけですからサンゴがダメになったときの国家経済への打撃は相当なものになるわけです。サンゴが死んでサンゴ周りの魚が生きていけなくなるのも、漁業で生きているモルジブには大変な問題です。

そういった温暖化関連の対症療法だけに限らず、モルジブ政府が打ち出している第二次環境政策計画によると、モルジブの環境対策としていまやらなきゃいけないフィールドは9つ。(英語でごめん)

1. Climate Change - 世界温暖化対策
2. Coastal zone management - 沿岸地域対策とでもいいましょうか。
3. Bio Diversity - 自然界の生態系の多様性を保護しようというやつ
4. Integrated Reef Management - 珊瑚礁保護対策
5. Intergrated Water Resource Management - 安全な水の確保対策
6. Solid waste & Sewage Management - ゴミ・下水問題対策
7. Sustainable Tourism Development – 持続可能ななツーリズム開発
8. Land Resource Management - 土地有効活用、要は農業に生かしたい
9. Human Settlement & Urbanization - マーレの人口集中による環境汚染等の対策

どれもみんな海とサンゴというモルジブの大事な資源を守る、というための対策です。

これらのうち、1は前述の自分たちのエネルギーシステムを環境にやさしいものにすることによって世界の手本となるようにがんばる、ということの他、各会議に参加してひたすらアピールする、という対策です。

ひとつひとつ、いろいろどういうことがissueでどういうことを対策としてやっていこうとしているか、とか書こうと思えばいろいろあるのですが、それをやるとさらに長い話になるので、ここでは、一部概念紹介程度にしておきます。

2は、温暖化の影響を最小限に押さえるために堤防建てたりしてなんとかするのがこの対策のもともとの主な主旨ですが、それだけではなく、ジェティ(船着場、桟橋)を建てるときに船が出入りできるようサンゴ礁に溝を掘ってチャネルを作ったりするのですが、その際に不必要にサンゴを傷めたり殺したりしないよう、きちんと計算して計画的に進める、とかの対策も含んでいたりします。ていうことは、Coastal Managementというのは、もっと広義的に、モルジブの大事な資源である海とサンゴを守るためにやるべきこと、というのが2の存在する意味のような気がします。

しかも、2は、3~9のどの問題にも深く関わってくることで、このCoastal zone Managementがうまくいくとみんな他の問題も解決できるのだ、というカンジですが、でも、そう簡単にはいかないくらい複雑で難しい問題なんです。複雑で難しい問題だからこそ3~9が別立てで存在するんですけどね。

どういうことかっていうと、例えば、3のBio Diversityの話は、海が自然資源であるモルジブは、サンゴが死んでしまってはそれにまつわる魚たちが被害を被ってしまうわけで、そうなると生態系がまったく崩れさるってことだから、例えば、下手な堤防の建て方をしてしまって潮の流れを変えてしまったため生態系が変わってしまったなんてことになると大問題です。堤防やジェティを建てることは島の発展に欠かせないことだからCoastal zone Managementがきちんと出来ないとbio diversityに影響を与えてしまうという点でCoastal zone Managementがいかに絡んでくるかということが分かるでしょう。

6.の下水問題にしても、下水はいまは海に流しているのですが、それについても潮の流れや下水の量をきちんと計算して、島のここのエリアからこれだけの長さのパイプでこれだけ島から離して流すのなら潮にのってビーチに戻ってきたりすることもないし、富栄養化でサンゴも死ぬことないし、とかいうことをきちんと計画して実行することがよいcoastの確保につながるわけだから、結局これもCoastal zone Managementの一つでしょう。

また7の「持続可能なツーリズム開発」というのは、いままで無人島だったところにリゾートをたてるわけですから、まずは建設資材運び込みなど用のジェティを建てるためにサンゴ礁を掘ることから始まるので、それによって自然破壊につながらないような施策を練る、とか、リゾートのオペレーションが始まったらゴミ・下水をどうするか、とかいうことも考えることが必要で、結局それもすべてCoastal zone Managementのひとつで、つまり、ツーリズム開発の際にもきちんとしたCoastal zone Managementをすることによって、モルジブの大切な海という資源を壊さない、ということになります。

では、よいcoastal zone managementすることの、なにがそんなに難しいか、っていうと、じつはまた前回の教育事情じゃないけど、発展途上国ならではの人材不足、という問題に立ちかえることになります。

要は、計画的に物事を運ぶためには、これだけのことをしたらどれだけの影響があるのか、ということを知らないと出来ないのは当たり前ですが、実はそういう知識がある環境スペシャリスト、というのがモルジブ国内でモルジブ人で、となるとほとんどいないのです。

ということは、対策をしなくてはいけないことは分かっているのに、現状把握が出来ていないためになにをしたらいいかわからない、というのがいまのモルジブの状況のようです。

ふつう、下水のレギュレーションを作るにしても、サンゴをどれだけどう掘っていいかのレギュレーションを作るにしても、なにをするにも現状把握と過去のデータに基づいてこれからの予測を踏まえてベースラインを作ってから、ここまではよし、ここからはだめ、とかすることが必要なのですが、なにせ、過去のデータを蓄積するような人と機関がいままで存在していない、ということは、いまから現状把握を毎年やってデータを蓄積していかなくてはならないってことで、しかもそれを出来る人材が国内にいないってことは国外から呼んでこなくてはいけなくて、そうなったときの人件費や、データ取って蓄積するための組織や器械などの費用などいまのモルジブ政府にはとても負担が出来ないくらいお金がかかるし、いろいろすぐには対策できない事情がいろいろあるのです。

なので、5とかの飲み水の確保も大事な環境対策なのですが、温暖化で海面があがってきていることにより、どれだけ島の地下の真水レンズが影響を受けていて、井戸で生活している人々にどれだけ影響を与えるか、などの研究もぜんぜんなされていなく、いざという時どうなっちゃうのかしら、と思います。いざという時はそんな先なはずではないだろうに、まだまだあっちこっちにやるべきことが転がっているのです。

しかしそこはUNDPが入っているモルジブ、世界で始まったGEFプロジェクトの資金援助を受けて、一、二年前から、人材不足・データ不足による環境対策の遅れになんとかキャッチアップを図ろうと、プロジェクトが立ち上がりました。いま現在の状況としては、海外から専門家を呼んできて、サンゴを守りつつ活用していくためにどういう対策をとるか、の検討が始まったところなのでまだまだ先は長そうです。しかも、測量とか統計とるとかにしても予算をもらうために、いちいちプロジェクトにしなきゃいけなくて、いちいち申請とか審査とか決定とか時間がかかってしまうので、そんなこといちいちやってたら、島が先に沈んじゃうぞ、とか思ってしまいます。

そして、人材不足・データ不足だけではないdifficultyもいくつかあります。

一つは、なにをするにあたってもdifficultyの原因となっているモルジブの島々点々地形。島々があちこちに点々としているため、島を取り囲む海の環境状況は島々によってそれぞれすべて少しずつ違うってことです。なので、こっちの島でサンゴを守るのに通用したレギュレーションが、あっちの島では通用しないってことだってあり得てくるのです。島それぞれのデータをそれぞれ取ることが出来たらきっとそういう可能性も最小限に押さえられるのでしょうが、そこは1200島もの島にそれぞれ人とデータ測定器なんぞをおくわけにもいかないので、ほとんど実現不可能でしょう。

また、島の人々の環境に対する認識、意識がそれぞればらばらで、自分たちの海なのに魚いっぱい取ってなにが悪いわけ、とかゴミくらいうちの島がちょっと海に捨てただけでどうにかなるわけないでしょ、とか、やっぱり島の小さいコミュニティに生きてしまっている人たちを相手に、国全体として国民が一丸となって、という意識の統一を図るのも難しいようです。それもやっぱり「地形」がそうさせているのでしょうか。

でも考えてみれば、みんながそれぞれの島でがんばって島の暮らしをよくしようとしている中で、まだきちんとしたレギュレーションができていないんだから、「開発」が先に立ってしまうのは仕方ないことなのかもしれません。それでもって「公害」が出てきて慌てて対策に走る、っていうことになるんでしょうけど、てことは、結局やっぱりなにかドライブになるものが必要なのかも知れませんね。

ということで、今回はここまで。


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P.S. 月刊Diver8/10売り、もう買って見ていただけましたでしょうか。顔写真とプロフィール入りで出ているハズです。過去のモルジブ通信をチェックしたい人は、シュウのWEBでできます。http://www5a.biglobe.ne.jp/~inatomi/
毎回更新してくれてます。



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