モルジブ通信

Sunday, July 15, 2001

モルジブ通信 4 - ツーリズムについて

こんにちは。

モルジブ通信4号です。

なんか、こむずかしい話が続いたので、今回は、ちっと楽しい、南の島らしい話ももりこんでみます。やっぱ、もとサイパンで食ってたマリアナチーム代表としては、ツーリズムを語らないわけにはいかないでしょう。まだ残っている夏休みのデスティネーションとして、みんなを行きたくさせちゃおっかなあ、と。

モルジブのリゾートは現在90件ほどあり、ベッド数15,000以上、稼動率平均70%となっています。年間の観光客数は40万人。サイパンとそう変わらない数字ですが、来ている客はヨーロッパ系が多い(80%)です。内訳的には、ドイツ人20%、イタリア人系20%、イギリス人14%、フランス人5%、で、日本人はというと、10%、といった具合です。その他アジア、オーストラリア、南アフリカ、と続きますが、やっぱり地球の裏側なせいか、アメリカ人があまりいません。だからモルジブはなんかセンスがいいイメージなんですかね。

ちなみに私がNYでアメリカ人の友達に「夏休みはモルジブ行くんだー」とかいっても、Maldivesが読めない人もいたくらいです。モルダイブ、モルディーブス、モ「る」ディブス、いろいろ言われました。

また、やはり地の利でしょうか、サイパン・ハワイとかに比べると日本人率もかなり少ないですね。けっこう距離的にも遠い(インド洋のインドの向こう側)ので日常を脱出するのにエイヤッ感があるのと、日程的にも余裕がないとのんびり感がでないので、やっぱり新婚旅行が圧倒的に多いです。乗り換えのシンガポールでは、空港で待っている人たち私以外みんなカップルでした。

モルジブのリゾートはオーナーの出身国によって全然カラーが違うので、カップルで来る人以外のお姉さまグループたちには、イタリア人のスイートな男の子がいるリゾートがいいわ、とか、フランス人のキュートな男の子がいるリゾートがいいわ、とかご希望によっていろいろ選択肢があります。そしてやっぱりフランス人系リゾートはお部屋ものもセンスがいいしワインが美味しい、とかイタリア系は夜バーに行くとワイワイにぎやかだ、とか、ドイツ系はパッケージとかあっていろいろ経済的、だとか、お国柄によってリゾートの雰囲気もだいぶ違うようです。

でも日本から来るにはパッケージツアーがお得なので、日本人が行くところは、たいてい「大型数こなし系リゾート」になりがちで、他の日本人もたくさん来ているので「なんだかな」感があるかもしれません。日本人率40%とかいうリゾートとかにいっちゃうと、非日常感もラブラブ感もどっかふっとんじゃいますよね、こんなところまできて。

しかも、モルジブのリゾートは一島につきひとつのリゾートしかないので、もしそのリゾートがダメリゾートだった場合、どこにも逃げられないです。なのでそのリゾートの雰囲気とかけっこう大事で、安っぽいところに行っちゃうと、安っぽい気持ちになって帰るはめになると思います。

海のアクティビティだけじゃなくて、お部屋でゆっくりするのが好きな人にはお部屋の雰囲気とかやっぱりすごく大事ですもんね。なので、私がお勧めするのは、パッケージじゃなく、このリゾートホテルに行きたい、と指名してアレンジしてもらう旅行です。タカビーなリゾート好きな私としては、ソネヴァフシとかニカホテルとか、小さいけどすみずみまでこだわった雰囲気のいいリゾートが魅力的かな。この間の五月売りのフィガロでも、モルジブに新しくできたリゾートが出ていましたが、ああいうところも行ってみたいですね。

ということで、せっかくのモルジブ旅行、じっくり練ってきてから来てください。

モルジブのそういったリゾートは、私がいままで書いてきたような数々の社会問題なんてみじんも感じさせない、別世界です。それはまさにモルジブ政府による「地形」を生かしたうまい戦略で、1000島余りある無人島をすこしずつリゾートホテル会社にリースしてそれぞれ開発させる、そしてそういったリゾートはローカル的には禁じられているアルコールも許されているなど、モルジブの現実社会とは切り離した西欧の世界作りに貢献しています。

ローカルの生活が見えない分現実感がなくて、その非日常感が、なにもしないことを楽しむ本格リゾート派の人にとって理想的な空間を作っていますが、観光好きな人にはなにも見るところはないということになりますので、そういう人にはモルジブは向きません。ホントは、バリのようにローカルの生活が溶け込んだ世界が見えたら見えたで、きっともっと魅力的なディスティネーションになるのにな、とわたし的には思っているんですけどね。でもリゾートで毎日魚カレーってワケにもいきませんけどね。

その無人島リース戦略は、非日常感が作れるリゾートにとっても、また逆にローカルにとっても好都合に働いており、例えば、アルコールなどはもとより、ビキニなど「男を惑わす悪しきもの」的習慣が、ローカルの目になるべく触れないように制限できるなど、文化的交流によってローカルの人たちが受けてしまう影響を最小限に抑えるのに役立っています。だってやっぱりナイスなビキニとか他の国の人が着ているのを見たら、モルジブの人だって、私もこんな布かぶっていないで、ビキニ着て泳ぎたいわ、とか思ってしまうわけです。だってそのほうがダントツにかわいいじゃん。でもそれをモルジブ政府は「国際文化交流による自国の伝統の崩壊」と呼ぶのです。

モルジブのツーリズムが発展し始めたのは1970年代。年々着実に伸びてきており、今では、観光収入はモルジブ政府の最大の歳入源(30%)であり、漁業をおいこして最大の国家産業となりました。その歳入は、地方に学校を建てたり病院を建てたりするのに使われていて、モルジブ人の生活水準・教育水準をあげるのに貢献しています。

しかし、当然、開発が進むといろいろな問題が発生してくるわけで、リゾート客が味わう非日常感とはうらはらに、現実問題としてモルジブにさまざまな課題を突きつけているのも事実です。その問題というのを大きくわけると、一つは労働者問題、もうひとつは環境問題、でしょうか。

労働問題については、一番大きな話題としては、これだけ産業として発展しているにも関わらず、モルジブ人の労働機会の増加にあまりつながっていない、ということです。

もちろん、リゾート周辺ビジネス、例えばおみやげ屋、とか、リゾートに魚を供給するビジネスとか、観光客を運ぶボート業、だとかは市場機会・労働機会増加につながっていて「ツーリズムさまさま」なのですが、リゾート内での労働機会、となると実はモルジブ人よりも外国人の労働者が多いのです。

それは、リゾート経営側としては、サービス業のスキルや経験がない割には高い賃金を要求し、しかも短期でどんどん辞めていくモルジブ人(離職率30%というリゾートもあるくらい)よりも、英語もできて安い賃金であれこれよく働いてくれるインド人やスリランカ人、バングラデシュ人の方が、はるかに使い勝手が良いのです。また、技術を要する職種になると、モルジブ人労働市場には供給がないので仕方なく労働力輸入ということになっていることもあります。この外国人労働者の多用というのも、モルジブのローカルの生活感が見えない理由の一つとしてカウントできるでしょう。

技術のことをいわれてしまうと、モルジブの教育システムに関わる問題になってくるので、「人」が育つには時間がまだまだかかるのだ、とだけいっておきましょう。教育については次の回で特集する予定ですが、ツーリズムに関していえば、将来ツーリズムに関わる仕事に就きたいと思っているローカルの人のために、「ホテルスクール」と呼ばれる専門学校があります。そこでは、日本語やフランス語などの外国語や、ハウスキーピング、フロントデスクでの応対の仕方、日本人観光客に向けた日本食の作り方、など、サービス業に携わる人が必要とされるようなスキルを身につけられるようになっています。

それにしても、ツーリズムによる国際文化交流をよしとしない、とは言っていても、やっぱりツーリストの需要に応えるには、モルジブにはなかった新しいものを取り込んでいかなきゃいけないわけだから、じゃあそこでの良しきものと悪しきものの線引きは一体どこでするんだろう、と思います。

外国人労働者がサービス業就労者の多くを占めている、といっても当然ある程度の割合でモルジブ人労働者だっています。ただ面白いことに、サービス業なんて女性に向いている職業なんだからローカルの女性の雇用機会増加につながっていそうで、いいじゃん、とか思いがちですが、現実はまったく逆で、リゾートで働いているモルジブ人の女性は世間様から白い目で見られるんだそうで、ツーリズム産業はモルジブ人にとってはまったく「男の職場」なんだそうです。

モルジブ人女性がリゾートで働いているとなぜ白い目で見られるのか、というと、それはまさにまたムスリムであること、が関係してきます。

まずたいていのリゾート労働者は、そのリゾートに住み込みになります。女が島に住み込むということは、家を離れなくてはいけないわけで、まず、その時点でダメ。仕事のためとはいえ、女が外泊するなんて、言語道断なんだそうです。なので、それでもリゾートで働かなくてはいけない女の人は、住み込みではなく、毎日船で「通勤」ということになります。通勤距離範囲内、ということになると、リゾートの隣かまたその隣くらいの島でなくては通えないわけで、男の人のように環礁を越えての出稼ぎに出かけるわけにはいかなくなります。そうなると、自分の島の隣かまたその隣くらいの島にリゾートがある確率というのはそんなに高いわけではないので、やっぱり女性の雇用機会増加にはつながらないのです。

もうひとつ、家を空けること以外に女の人がリゾートで働くことが「白い目」につながる理由として、ツーリストの外人をひっかけるんではないか、という先入観がすごいこと。モルジブの国に外国人の血が入ることをよしとしない伝統的理由に基づく先入観があるんだそうです。これもムスリムというか、南アジア圏の封建、というか。。。。ちなみに、ホントに引っかけてしまった人には、「村八分」というのが待っているそうです。六本木あたりで外人ひっかけてばかりいる人は、大変なことになりますね。

では、モルジブ人の男性リゾート労働者なら、文句なく花形職業なのか、というと、まあきっと「簡単で儲かる職業」視点的には花形なんでしょうが、それはそれでいろいろあるそうです。例えば、住み込みという労働形態によって発生している問題があります。

一つは、住み込んで働いている間の留守宅の問題。これは、前回のモルジブ通信にもちっと書いたことですが、環礁をドーニ(船)で越えて行くには、隣の環礁なら3時間程度で着くかも知れませんがさらに遠くなると3日とかかかる場合だってあります。いまや水上飛行機というものがあるので、お金さえあればそれに乗って一時間とかで着くかも知れませんが、そもそもそんなお金があるなら出稼ぎなんかには行きません。なので、リゾート就労者はたいていの場合、いっぺん自分の島を出てしまうとなかなか簡単には帰れないのが現状です。

しかもリゾート側は、スリランカ人などの外国人労働者には一時帰国のエアー代を持ってあげたりするのに、モルジブ人が自分たちの家に帰省するのにはお金を出さないばかりか、緊急に家に帰らなくてはいけない事態が発生しても、帰って良いかどうかの判断は経営者側一存によるのみで、帰りたくても人手が足りないから帰らせてもらえない、とかもあるみたいです。

Addu Atoll(アッドゥアトール)というモルジブの最南端に近い環礁では、あまりにマーレから離れすぎているためリゾートを作るにもコストがかかるしツーリストにとって便も悪いし、というのでリゾートが環礁内にあまりないため、この環礁の男性は他の環礁に出稼ぎに出ているツーリズム就労者が多く、留守宅問題が顕著に出ています。妻同志のレズの問題や、子供たちのドラッグ、アルコールづけ問題など、UNDP&World Tourism Organization (WTO)の2000年のツーリズムレポートでも具体的に環礁名があがるほどの問題となっています。

もう一つ、住み込み現場では(ムスリム的に)大変なことがおきています。そうやってリゾートの従業員アパートに長期住み込みをしていると、生活を共にしている時間が長いため、当然カップルも誕生してきます。でも女の従業員は住み込みではないので、男のカップルってことです。それも前述のツーリズムレポートで出てしまうくらい顕著なんだそうです。ちなみに同性愛はモルジブでは法律で禁じられているので、見つかると逮捕されちゃいます。

ということで、そういった数々の労働者問題の対策として、モルジブ政府では、外国人労働者の数を制限するとか、モルジブ人従業員が一ヶ月に一回自宅に帰るための休みを福利厚生の一環として義務づけるとか、同じアトール内で人を雇うようにしてなるべく住み込まずに通えるような雇用形態を作らせるとか、モルジブ人が長期で勤めたくなるようなインセンティブ(研修システムとか給料がちゃんと上がっていくとか)を作らせるだとか、いまはそれぞれのリゾートの経営方針に任されているところに介入政策を検討しているようです。産業として大きくしていくには、ある程度のコントロールも必要でしょう。


もうひとつのツーリズム発展に伴う問題の大きなくくりとして環境問題があります。

ツーリズムに限らないのですが、開発にいつも伴う環境問題として、ゴミと下水の問題があります。リゾートがたくさん建ってツーリストがたくさん来るようになると、ゴミも増えるし、下水の量だって増えます。いまはどうしているかというと、リゾート会社の責任において各島それぞれで施設の建設・管理をすることになっていて、政府としての一貫したレギュレーション・基準が特にありません。ということは、各島バラバラのスタンダードで処理していることになります。

ということはどういうことなのかというと、もしそのリゾートが悪者だった場合「がっと儲けてハイさようなら経営」をする気になれば、できてしまう、ってことです。環境にやさしくないけど安上がりなゴミ・下水処理システムをとりいれて、どんどん儲けるだけ儲けて、海をさんざん汚しても、政府が怒る仕組みがないし、海が汚くなって取り返しがつかなくなる頃には21年のリース期限がくるからもう用はない、ってことなんですね。

それは極端な例なのかもしれませんが、でもそれに近いことはリゾートも企業である以上起こり得るわけで、そんなことがおきるのを防ぐために、モルジブ政府では、リース制度をやめるとか、リース期限をもっと長くするだとかの政策を検討しているようです。要は、いまは21年というリース期限があるために、企業としては、その期間内でターンオーバーを考えて投資としてきちんと儲けるためには、環境のことばっかりは考えていられないや、ということがあるのですが、それが自分の島となってずっとその島で商売していくことになれば、長期的に投資計画も考えられるし、環境とも共存していきながらのビジネス形態にしなくてはいけなくなるので、かなりsustainableな開発を促進できるということなのです。


ツーリズム発展の問題点としては以上が大きなトピックスですかね。


あと、ツーリズムの発展が社会的に間接的及ぼした変化、というのもあって、それはわたし的にはいいことなんじゃん、と思っていることなのですが、そうやってモルジブ人がツーリズムに関わり他の国の人の文化をみたりする機会が広がったり、そこで得た収入でテレビが買えて衛星放送が見れるようになり他の国のテレビ番組が政府の規制なしで見れたり、コンピューターが買えるようになってインターネットで情報が国堺を越えてゲットできるようになったりすることによって、モルジブ人の社会行動もだいぶ変わってきているそうです。

たとえば、前述のツーリズムレポートの統計ででていたのですが、ツーリズムに就労している若者は他の産業に就労している若者よりガールフレンドと手をつないで街を歩く率が高い、とか。手をつないであるくことが社会行動の変化として統計的に捉えられること自体、ふうん、ってカンジなのですが、それはここはムスリムの国、オープンな男女交際は「白い目」につながる風潮がいままであったものですから、そんな西欧風な愛情表現は古い人たち的にはびっくり、なんでしょう。

まあ、手をつないで街を歩くことがどうこう、というよりも、UNDPの今年のHuman Development Reportでもいわれている通り、健全なコミュニケーション(メディアとか文化交流とか)はその国が貧困を脱出して発展していくために必要不可欠なことだから、そうやって世の中にはいろんなことがあるんだよ、ってことをモルジブの若者が、政府や慣習の枠を越えて、知る機会が増えたことは、モルジブのこれからの発展にとっていいことなんじゃないかと思います。やっぱり知っちゃうと欲しくなって、それを手に入れるためにがんばるのが人間の常でしょ。

わたしが宗教的慣習的規制がある国、モルジブで生活して思うのは、月並みだけど、世の中にはいろんなものやいろんなことがいろいろあるってことを知ってて、そのいろいろを選択できる自由があるってことはかなり贅沢なんだ、ってこと。私たち的には物質的にも精神的にも選択するものがいろいろあってそれが当たり前になっているけど、発展途上国の人たちはいろいろあるってことを知らないから選択できないし欲しいとも思わない、っていうことが往々にしてあるので、みんなもっと知る機会を持てるようになるといいなと思います。

それがツーリズムでも達成することができるんだから、もっと日本人は途上国に海外旅行に行くべきなのだ、ということで、みなさん、モルジブの国を救うためにモルジブへ来てナイスなビキニ着てください。



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