モルジブ通信

Saturday, July 07, 2001

モルジブ通信 3 - モルジブの政治・経済

こんにちは。

モルジブ通信第三号です。

いつもまじめな話ばかりなので、さぞかし仕事しているんだろうとみなさんお思い(?)でしょうが、ちゃんと遊びもやってます。ダイビングでマンタ見たり、クルーズで飛び魚見たり、先々週末はちょっと足を延ばしてスリランカに行ってゾウ見たりとかしてました。ちゃんとリゾートとかでビキニの水着も着ています。


今回は、モルジブの政治・経済について。

モルジブの政治経済を語るには欠かせないのが「地形」という要素。モルジブは、サイパンのマニャガハ島みたいな一周歩いて15分くらいの小さい島が、南北に800kmに広がった国の海域中に1200島も点々とあるので、どうしても問題になってくるのは、島間のコミュニケーション、です。

コミュニケーションという言葉の中には、電話とかメディアとかの意味も含まれますが、国をあげての対応をしているのは、まずは運輸機関のインフラ整備、です。モルジブは古来から漁業の国だったので、船での移動が日常ですが、魚を捕りに行くドーニという船は、ポンポン船に毛が生えただけのようなものなので、首都マーレから遠く離れた島に急病人が出て緊急にマーレの病院に入院しなくてはいけないのに、ドーニで3日もかかっていては、死んでしまうわけです。

まあ、そこには、入院施設が整った病院がマーレにしかない、ということ自体がこれから解決していかなくてはならない社会問題のひとつとも言えるのですが。でも、ということは、200ある有人の島々に一軒ずつ病院を作っていかなきゃいけないってことになっちゃうわけ。それ自体、こんな地形じゃなかったらそんなコストはかからないのに、ってことになります。

もうひとつ「地形」に絡んだ問題としては、モルジブの島々はサンゴから出来ているため、土地が肥沃でない、ということ。土がないんですね。サンゴで出来た島というのは要はカルシウムの固まりのサンゴの死骸で出来ているということなので、農作物がとれるバランスのとれた栄養のある土は存在しないのです。そうすると、モルジブの人たちが栄養のバランスのとれた食事をするためには、すべて輸入に頼らなくてはいけないのです。そうすると外国からまずマーレに輸入され、そのあと、各島々に輸送されることになるのですが、結局前に述べたように、輸送機関のインフラがまだ整っていないばかりに、地方の島で手にはいる野菜などは、高くて新鮮でないものになり、そんなものはべつに食べなくてもいい、という食習慣になり、地方の島々では栄養失調の人がいまだたくさんいるそうです。魚とココナッツだけ食べててもいけないんですね。

ということで、
モルジブの国家開発計画の中で、モルジブの将来をおびやかす早急に対策をしなくてはならない問題として、二つが上げられています。ひとつはその運輸機関のインフラ整備。もうひとつは、これはたぶん宗教的な原因と地形的原因とが結びついていると思われる、人口増加&集中問題。

人口増加に関しては、「現在、国民全人口のうち50%が15歳以下」という数字で、いかに急激に人が増えたか、ということがわかるでしょう。この件については、モルジブの家族・結婚事情特集のまたはモルジブ人の教育事情特集の回にもう少し詳しく触れることにします。

人口集中、というのは、まさに地形的理由に帰するもので、運輸機関のインフラが整っていないため、1)地方に産業が育ちにくく、漁業を離れた人々が職を求めて首都マーレに出稼ぎに来る、2)地方にいい学校がないため、いい教育を求めて首都マーレに移住してくる、の二つが大きな原因で起きている問題です。地方にいい学校を作るにも島間のいいコミュニケーションがないと作れないんですね。病院も同じだけど、建設のためのコストが貧乏なモルジブには負担できないのです。

そしてさらに、その運輸機関のインフラがまだよく整備されていなくてマーレに人口集中が起きた結果、新たな社会問題が発生してきています。

マーレはここ2,3年でほんとによく発達したといわれ、ちょっとした生活にはなんの不便もなく、発展途上国とは思えない生活レベルが維持されています。例えば、テレビ、冷蔵庫などの基本電化製品から、ケイタイ、インターネットなどの近代コミュニケーションツールまで、種類の幅はせまいけど、でも普通に手に入ります。

でも、それが地方の島になると、いまだに一軒の家にひとつのトイレもなく、海で朝のお勤めをしている、だとか、学校にトイレがないので授業中海に走っていくはめになるだとか、驚く話が色々あります。数年前のUNDPの貧困調査では、電話普及率と洗濯機普及率が調査対象になったくらい、地方では手に入りにくいもののようです。それは、輸送コストが加算された上、その島の人たちがそれを買えるくらいの収入がない、という市場が育つわけないグルグル論理になっているのです。

そのマーレと地方の貧富の差、持つもの持たざるものの差(disparityと呼ぶ)も問題となっており、そのギャップを埋めるべくの施策も必要となるのです。

また、出稼ぎにお父さんが出ていってしまって残された家族の中でも問題が発生したりしています。地方の島では仕事がないので取り残された妻たちの雇用機会も当然ないのですが、子育てだけで家の中にこもっているうちに当然つらくなり、ご近所の同じような境遇の妻たちとレズに走る、ということが起きているそうです。ムスリム的にはこれは大変なことです。そして子供たちはドラッグやアルコールにおぼれてしまってこれまた大変なことになってしまっているのです。


ちょっとここで、データ的にものを見てみましょう。

- モルジブのGNP一人当たり 1200 US$  (1999年)
(以前、モルジブ通信1で、GDP一人当たり1000US$いかないくらい、と書きましたが、それはモルジブ政府が発表している、現在の通貨価値を使わずに1985年時点の統一価値で計算されたGDPでした。ここでは、ちょっと国際的に数字を見るために、世界銀行のデータを使っています。)

ちなみに他の途上国の一人当たりGNPの数字(US$)は、
- 南アジア圏
インド 440
スリランカ 820
ネパール 220
- 東南アジア圏
マレーシア 3390
タイ 2010

先進国は、というと、日本 32,030$, USA 31,910$と、単位がひとつ違うわけです。それでもモルジブのGNP伸び率はここ何年かずっと平均7%を保っており、よくがんばっています。それにしても一年間の年収が1200US$って、、、、とてもエルメスなんて買えないわけです。


****
- 政府歳入  20 million US$  
 うち、関税収入が30%
観光税収入が30%
いかにツーリズムが国の収入に貢献しているか、明らかですね。

- 政府歳出 21 million US$
 いちばんは 港湾工事 19%
教育 18%
エネルギー 12%
地方開発   9% 
といったところが目立つところでしょうか。。。 港湾工事というのは、まさに島間の交通の便をよくするために、地方の島々に大きめの船がつけるような港を順番に作ったりしているヤツですね。

- 輸出入取引総金額
輸入 390 million US$
食料 22%
工業材 27%
燃料 12%
消費財 18% 

輸出 76 million US$
鮮魚・冷凍魚・魚加工品 60%以上
縫製品 20%

この輸入額と輸出額のアンバランスさ、と輸出品目の少なさ。このアンバランスもなんとかしなきゃいけない問題のひとつとなっています。それは、モルジブの産業が漁業とツーリズムしかないことに帰していて、しかも二つとも地球温暖化など、外的要因の影響をモロに受けやすい不安定な産業であることも、モルジブの課題となってます。


では、そういった問題・課題を解決するためにどういう政策がなされているか、ちっと見てみましょう。というか、UNDPとして、こういった問題を解決するためにモルジブ政府と一緒にどんな活動をしているか、ですかね。

UNDPのメインとなる援助の目的としては、キャパシティビルディングによる地方の労働機会増加があげられます。

要は、地方の島々にそれぞれ産業を作ることにより、出稼ぎに出かけなくてもそれなりの所得が稼げるように、人を育てることから始めてインフラも含めてお膳立てをしましょう、ということ。とくに女性ができる仕事を増やす、ことにも力が入れられています。

そういった目標でモルジブの事情にあうようにいくつかプロジェクトがデザインされます。

例えばどんなことをしているかというと、私がいま担当しているのは、真珠の養殖をモルジブで始めてみるというプロジェクト。

ツーリズムと漁業の二つの産業だけでは、なにかあった時の打撃があまりにも大きくなるので、国の歳入源としてもっと産業の種類を増やしたい、それが地方にあったら雇用機会の増加につながるのでなお良し、そしてたくさんある海で出来ること、というので真珠の養殖をやってみよう、ということになりました。養殖するのにもちろん人手がいるし、真珠がとれたあと、宝飾品にするのに職人がいるし、それを売るのに流通がいるし、と産業として仕組みができあがればけっこうな数の労働力が期待できるのです。そこには女の人にも出来る仕事があるし。また、タヒチのように国際的に真珠の名産地という名前がもらえれば、観光地としてのモルジブのステイタスもあがるし、養殖場の観光ツアーも出来るわけです。まさに一粒で何度もおいしい計画です。

しかし、まったくいままでなかった真珠の養殖という産業を始めるには、まずいったいどんな種類のカキがモルジブの海にいるのか、の調査から始まります。そのカキの種類によって採れる真珠も変わってきます。また、どうやってカキを採集するか、集めたカキをどうやって育てるか、育ったカキにどうやって真珠の素を埋め込むか。育った真珠をどうやって採るか、とモルジブはなにも知らないわけです。

キャパシティビルディングという意味には、そういった真珠養殖の技術・知識を持っている国からモルジブへの技術・知識の移転、そしてそれをモルジブ人が一人で出来るようになるまで教えながら技術者を育てる、ということが含まれます。一般に、そうしたときにパワー発揮するのが「専門家」として技術を持った方達です。プロジェクトにもよりますが、日本人に限らず世界各国から技術を提供できる専門家が集められています。

いま五年目を迎えたその真珠プロジェクトは、モルジブ人のプロジェクトスタッフが自分たちだけで、真珠の採取が出来るようになったところです。これから、プロジェクトスタッフから地方の島の人たちに技術移転をコマーシャルベースにのるまで順々に行っていくことになってます。

また、その採れた真珠を使って宝飾品に加工することできる職人を育てる段階にも来ています。そしてそのあとその作った真珠宝飾品を流通に流すためのビジネス設計をする専門知識の移転も行われる予定です。ローカルのツーリスト市場と国際市場と、両方を見ながら育っていくと良いなと期待されています。しかしこのプロジェクトはまだ試験的に少しずつやっているもので、産業として動いていくのにはもう少し時間がかかるでしょう。やっぱり、ひとつの産業をイチから育てていくのには時間がかかるのものです。

あと他のプロジェクトとしては、例えば、野菜・果物をモルジブ内で育てる試み。これは土地が不毛なので、水栽培の温室で作るという新技術を外国から協力を得て試しに作ってやってみてます。これも真珠と同じで、地方の島にその温室を作ることによって島の人たちの雇用機会増加、収穫された野菜たちの流通経路の雇用機会増加、そしてモルジブのみんなに野菜たちをいままでの価格よりも安く提供できるようになり、野菜不足による栄養失調を減らせる、と一粒でいっぱいおいしくなるようなってます。

他にも、Atoll Development(環礁開発)としてそれぞれの地方の島の発展を援助するプロジェクトがあったりと、モルジブ政府がいろいろ問題としている課題に対してプロジェクトがデザインされ、解決に向かってUNDPが一緒に動いています。

環境問題についてのプロジェクトとかもあるのですが、それについてはまた今度。

ということで、
そうやって一緒に仕事をすることにより、仕事の仕方自体を国際機関から学んでいくのもモルジブ政府のキャパシティビルディングとなり、将来自立の手助けとなっているのです。


ということで、今回はここまで。




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