モルジブ通信

Sunday, July 29, 2001

モルジブ通信 6 - モルジブ人の教育事情

こんにちは。

モルジブ通信第六号です。

今回は、モルジブ人の教育事情について。

でも、本題にはいる前にちちっと宣伝。
(^ ^)

わたしが好きで書いているこの一方的情報発信メール「モルジブ通信」が、お世話になっている方々のおかげで、ちょっとメディアに広がりが出ました。

一つは雑誌、月刊Diver九月号(八月十日売り)のモルディブ特集の中に、モルジブ通信一号を載せてもらえることになりました。その後も引き続き毎月月刊Diver上でコラム連載されます。書店でチェック、しかも買ってくれるともっとうれしい。モルジブがどんなところなのか、ビジュアルで確認してください。瀬戸口さんの写真だし、きっとモルジブ行きたくなりますぜ。

もう一つは、コロンビアでさんざんお世話になっている同級生の稲富修二くんのホームページに友情出演させてもらえることになりました。アドレスは、
http://www5a.biglobe.ne.jp/~inatomi/
です。彼のコンテンツともども見てみてください。いろいろ勉強になります。彼のような人がこれからの日本を背負って立ってくれるなら、私たち平民は安心できるってもんでしょう。


ということで、本題のモルジブ人の教育事情について。

モルジブ人は教育熱心です。

モルジブ政府の教育に対する歳出は、日本では全歳出の3.6%を占めているところ、6.4%を占めています。学校施設の整備と先生の教育にほとんどが費やされているそうです。それは国の将来の発展のためには教育がとても大事である、と国として認識しているからなのでしょうか。発展途上国で識字率98%を越えている国はそうそうありません。南アジア圏の中ではダントツ一位の高さだそうです。一般的に発展途上国にありがちなよく聞く話としては、そんな学校なんか行っている間に畑の畝のひとつでも耕していろ、勉強なんかで腹はいっぱいにならないぞ、という親がたいていのとこらしいのですが、モルジブでは、ぜんぜん違います。

前回のマイモルジブライフでもちょっと触れましたが、地方の島からわざわざマーレに子供たちを送り出して教育を受けさせるくらいです。それがマーレ人口集中問題の一つの原因ともなっているわけですが、なぜそこまでしてマーレに送り出さなくてはいけないのか。それはモルジブの人口増加問題と地形的原因が絡んで教育システムに影響を及ぼしているからなのです。

モルジブ人の人口増加が急激に起こったため現在人口の約50%が15歳以下、という数字は前のモルジブ通信で書きましたが、まずじゃあ、なぜこんなことになったのか。これじゃあ50年後超高齢化社会で、日本のように、というかさらに、いろいろ苦しむことになっちゃうじゃん、という意見もありますが、こういったアンバランスな人口比は発展途上国ではよくあることなんだそうです。

というか、もともとこんなアンバランス自体、「発展している」ことの証明なんだそうです。モルジブの場合、急激な人口増加の原因は、インフラの整備が以前より進んだことで、安全な水へのアクセスがよくなり、衛生環境が改善され、また医療施設などの整備も進んだことにより乳幼児の死亡率が下がったため、などがあげられます。また、食環境も良くなってきているので母体の健康状態も良くなったことも原因です。日本だってベビーブーム時代があったように、経済状況がよくなり社会が安定してくると、子供できちゃうもんなんですね。

ただ、やっぱりアンバランスなのは将来的にもよくない、ということで、人口増加コントロール政策というのが実施されており、ここ最近の人口増加率はだいぶ減ってきて、ちょうどいいくらいの出生率になっています。

この急激な人口増加が原因でモルジブ政府は15歳以下の子供の教育対策にいろいろ苦しんでいるのですが、主に二つの悩みがあげられます。

一つは、学校の建物をどうするか。点々と散らばっている200島もの有人の島に、それぞれ学校の建物を建てること自体タイヘンであることは想像に難くないでしょう。しかも、その急に増えてしまった子供たちの数に対応していくとなると、学校を建てても建てても追いつかないのと、建てたとしても数年後にはそこまでの子供の数がいなくなるわけだから、いまだけなんとかしのげばその後は回していけるのでは、という考え方もあって、「いま」どうするか、の対策が要されています。

もう一つの悩みとしては、先生不足。急激に増えた生徒の数に対して先生の数が圧倒的に足りないのです。学校の建物を建てても中で教える先生がいないんじゃ、学校として成り立たないでしょう。また、先生のトレーニングシステムが需要に対してきちんと追いついて整備されていないため、必要とされている資質のある先生がなかなか育っていないのも原因となっています。「いますぐ」必要なのは、どちらかというとこちらの対策でしょうか。

ここで少し、モルジブの教育システムを見てみましょう。

モルジブの教育システムは、6歳から1年生、は日本と一緒なのですが、小学校にあたるのは7年生まであります。そもそも教育システムが違うので「小学校」と呼んだりするのが正しいか疑問なのですが、分かりやすくするためにまあいいとすると、13-15歳が行く8年生から10年生までが日本の中学校にあたり、高校にあたるのが、16-17歳が行く11-12年生となります。「年生」というのもめちゃめちゃ日本はいってますが、こっちではすべてgrade 7(グレードセブン)とか、グレードで呼ぶそうです。

小学校レベル終了まではみんな一緒に順々にグレードのレベルがあがっていくのですが、中学校レベルのグレード8-10になると、毎年年度末テストがあり、そのテストである程度の成績がとれないと、もう一回同じグレードレベルの授業をやり直さないといけないそうで、しかも2年目同じテストをパスできないと、卒業できないまま学校を去ることになるそうです。日本のように誰でも中学卒業できるってのとは違います。

また、グレード10終了時には全員Oレベルというテストを受けないといけないことになっていて、そのOレベルでいい成績をとれないと次のレベルのグレード11に進めないので、日本のお受験並みにきっちり勉強しないといけないわけです。モルジブでも子供のうちからけっこう厳しい世の中を味うことになっているんですね。塾とか家庭教師とかも存在するようで、金持ちの家の子はそうやって学校以外のところでも勉強をしてさらに上を目指していくようです。

グレード10からOレベルテストを受けていい成績を取ってグレード11に進む進学率は、10%くらいだそうで、けっこう競争率激しいです。残りの90%はそのまま社会人として旅立っていかなくてはいけないのですが、それって16歳ですよ、グレード10終了時って(順調にいったとして)。

そんなに若くして世の中に出なくてはいけないとなると、労働市場でのいわゆるskilled laborとしてみなされるには、すこし厳しいものがあります。実際、skilled laborを必要とされているツーリズムや、先生、医者などは、expatriateといって外国人労働者が占める割合が高くなってしまっています。

また、グレード10卒業まで行き着かず年度末のテストで2ダブしてしまって学校を去ることになってしまったsecondary school leaversを救うための労働機会造成も一つの課題となっており、モルジブ政府としては、いまの教育システム自体を改善する必要性にも迫られているようです。いくら識字率が高くても、スキルを持った人材が育たないシステムだと、国としての発展にも限界があるってことです。

話を教育システムに戻すと、その後、グレード11に進んだ学年トップ10%の子供たちがグレード12まで終了すると、今度はAレベルというテストを受けるそうです。Aレベルテストは、大学レベルにあたるグレード13-17に進学するのに必要で、いい成績を取って始めて次に進めます。カレッジ(短大)だとグレード13-14までで、それ以上だとグレード15-17、で、終わりだそうです。すべて順調に進んで卒業だと23歳になってます。

現在、モルジブにはグレード12までの学校しかありません。しかもマーレに一つだけしかグレード11-12レベルの教育を提供する施設がないのです。そして、それ以上の学位が欲しい人は、海外に留学しなくてはなりません。なので、モルジブ人の、家が金持ちでかしこい若者たちは、たいてい、近くてスリランカ、マレーシア、遠くてオーストラリア、すごく遠くてイギリス、といったところに早い子はグレード11の時から留学しているようです。

わたしの上司の子供たちはスリランカに家族ごと留学(8歳から23歳までの男四人兄弟)しています。うちのファミリーの親戚はアメリカにパイロットになるために留学とかしている子もいるようですし、ここんちの一番上の息子19歳もマレーシアに留学しているのでわたしは会ったことがありません。ということで、モルジブの世の中を動かしている人たちの家庭の子供はやっぱりそれなりの教育を受けているってことです。

グレード10までをなんとかこなす人と、グレード11以上の教育を受けられる人と、そこでまた大きなdisparityがでてくるんですね。

ところで、平均的なモルジブの家庭の話として、やはりアトールの人々たちのことに触れないわけにはいかないでしょう。事実、そのグレード10までをなんとかこなす人と、グレード11以上の教育を受けられる人のdisparityには、地方で育つか、マーレで育つか、が大きく関係してくるのです。

地方の島々には小学校、つまりグレード1-7の学校、は、それぞれ需要を満たす程度に存在しています。現在マーレ含めて230校ほど学校施設があります。それはモルジブ政府ががんばってきた結果のようですが、それでも地方には建物がない学校、建物があってもトイレがない学校とか、黒板の代わりに砂を使う学校などもまだあるようです。

中学校にあたるグレード8-10レベルの学校は、それぞれの島にあるわけではなく、アトールごとに何校かある程度で、いま現在モルジブ国内で全部で26校程度、というようにいきなり数が10分の1くらいに減ります。そしてさらにグレード11-12の学校となるとマーレに一校しか存在しないんだそうです。現在9-10万人くらいが学校に通う年なのですが、全部で250校くらいしかない施設でその人数に授業を提供しなくてはいけない事態というのは、なんか想像を超えてタイヘンそうですね。

地方とマーレの学校施設の差はそのファシリティだけでなく、授業の内容でも大きな差があります。マーレの小中学校の授業はすべて英語で行われるのですが、アトールの学校では英語のできる先生が不足しているため、すべて英語で行うわけにもいかない事情があります。そこでマーレの小中学校に通った子と地方の学校に通った子で将来的に大きな差が出てくるのです。

特に、Oレベルテストを受けてグレード11-12に進む時点で英語の能力に大きな差がでてしまうことになるので、アトールに住む教育熱心な親たちは、いずれ上を狙うなら、まだ幼いうちから子供たちを親元から離してなるべく早い時期にマーレに送りたがるのです。

ウチに住んでいるアフマドくんとシルミナちゃんは、8歳くらい(グレード3)から親元を離れてマーレの知り合いのここのウチに住ませてもらい、学校に通っていたそうです。アフマドくんの島は26あるアトールの中でも一番北の離れたアトールにあって、当時のドーニでマーレまで出てくるのに8日もかかったそうです。

そうやって、地方から子供たちがマーレの学校に通うためにどんどん集まってきた結果、いまマーレに8件あるグレード8-10の学校では、一校につき三学年分で3-4000人の子供たちが通っているそうです。かぎりある校舎でその大人数所帯を回していくため、現在モルジブではシフト制をとっています。例えば、グレード8は朝7時半から、グレード10は午後六時からなど。ただ、そのシフトをしなくてはいけないため、限られた時間で決められたカリキュラムをこなすのがまたタイヘン、といったこともあるようです。

だったら、マーレだけでなく地方でも英語で授業が出来るよう、先生をトレーニングすればいいじゃん、ということも言えるのですが、実際、そういうことは海外協力隊員的な人たち(英語ネイティブのボランティア, VSO)の地方派遣などによりすでに行われているのだそうです。でもただ絶対人数的に需要に対して供給が少ないため、地方の各島々全部にまで英語の出来る先生が行き届かないのです。先生の研修だって毎年マーレで400人あまりずつ行われているけど、ホントに追いつかないんです。だって、英語がただ出来ればいいってわけではなく、英語が話せて、かつ理科、社会や数学などを英語で教えられなくてはいけないわけだから、そうそう簡単にいくわけがありません。いま現在、マーレでさえグレード8-10の先生たちはモルジブ人ではなく、インド人やスリランカ人またはマレーシア人などが大半なんだそうです。それだけの資質を持った先生がモルジブ人ではいないってことです。

でも小中学校通して英語で授業を受けて育ったおかげで、マーレにいる今時の若者のたいていは英語が話せます。日本のたいていとは大違いです。その若者たちが大きくなったときに、やっと英語で社会や理科を教えられる先生になっていくのでしょう。もうあと少し時間が必要ですね。

ひとつ、モルジブの教育システムの穴としてあげられるのは、そうやって優秀でさらに上の教育を受けたい子供たちには、海外留学という手しかないため、優秀な人材の海外流出が多い、ということです。せっかく海外でいい教育を受けてモルジブに帰ってきても、ある仕事は漁業とツーリズムくらいだし、知恵がつくとモルジブの現状にいろいろ不満がでてきたりするわけで、帰って来たくなくなってしまうんだそうです。海外でもっといい生活をさんざんしてくるわけですからそれも当然でしょう。

モルジブが国として発展していくためにはその優秀な人材を国内に蓄えて、優秀な頭脳を国のために使ってもらわなくては意味ないのですから、その流出に歯止めをかけることも早々の対策が必要でしょう。

特にいまモルジブが必要としている人材は、経済学者、環境問題の専門家、政府経営の専門家など、スキル・知識を持った人材です。いまは国際機関の協力を経て海外の専門家の知識や技術を「キャパシティビルディング」と称して移転してもらっていますが、ゆくゆくはモルジブ人自身でそういったスキル・知識を伸ばしていかなくてはなりません。

現在、モルジブ政府では理科や数学などの理系教育のカリキュラム強化を検討中のようですが、やはり早々にグレード13-17レベルの教育機関もモルジブ国内に作ることも大切でしょう。大学などの研究機関が国内にあると、知識の蓄積度合いがぜんぜん変わるだろうし、モルジブ人自身のインセンティブにもなるだろうに、と思うのはわたしだけでしょうか。それともそうしたいのはヤマヤマだけど、そこまでの人材がまだ育っていないからできない、とされているんでしょうか。でもそれこそ、国際機関の協力があるうちにいい教育機関を築き上げておく方が、先生などの人材提供協力だって得やすいだろうに、と思ってしまうのですが、きっとそこに国際機関が出来る範囲の限界があるのでしょう。それか、発展途上国では、先進国にいた時には考えもしなかったことがいろいろあるもんです。きっとわたしがまだ知らない段階をいろいろ踏まなきゃいけないんでしょう。


ということで、今回はここまで。


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